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2020年7月よりビニール袋が有料化
環境問題は世界中の国にとって喫緊の課題。日本も例に漏れず、やるこたぁやってます。
そんな中の取組みの一つ、ビニール袋の有料化が2020年7月より導入されました。これまでタダでもらい放題だったビニール袋が、突然自らの価値を主張し始めたわけですね。
そこでエコバッグが注目されるようになりました。といっても、エコバッグ自体は、1992年にすでに日本で導入されていました。(参照:Wikipedia「マイバッグ運動」。2021年3月27日アクセス)私自身、ずいぶん前からエコバッグは持っていたように思います。
ところで、1992年というのは、実は私がロシア語を習い始めた年。ロシア語を勉強する中で、「авоська(アヴォースィカ)」という言葉に出会いました。ロシア人の先生にその意味を聞いてみると、「万が一いいものが見つかったときに、買ったものを入れる袋」とのこと。
買い物するために持ち歩く袋……これはひょっとしてエコバッグだったのでは?!
エコバッグらしきものがロシア(ソ連)にも……
アヴォーシカとは?(形状)
『研究社露和辞典』によると「網目の買い物袋」とあります。百聞は一見に如かず。写真を見てみましょう。
こんな感じの代物です。しかし、すみません、実は本物のアヴォーシカではありません。だって、持ってないんですもの(開き直り)。インターネットの発達した世の中ですので、ネット上で画像検索し、類似のものをYahooショッピングにてお買い上げしたものです。ロシアのものが御覧になりたい方は、ひとまずこちらもご参照ください。→Wikipedia「Авоська」
そして、そのWikipedia「Авоська」によると……
アヴォーシカとは、主に市場や商店に行くときに使う生成りの糸を編んでできた網目状の買い物カバン。折りたたむと場所を取らず、ハンドバッグやカバン、ポケットに入れて持ち運びやすい。(拙訳)
参照:ロシア語版Wikipedia”АВОСЬКА”
この定義だとアヴォーシカは、まさにエコバッグということになりますね。(網目状限定という点を除いては……)
アヴォーシカが登場した時代
日本でエコバッグが初めて導入されたのは、1992年です(Wikipedia「マイバッグ運動」より)。
それでは、ロシアの……というより、もはやソ連のエコバッグ、アヴォーシカはいつごろ登場したのでしょうか?
一説によると、1920年代にチェコで作られたものと言われています(参照:アヴォーシカの歴史)。また、「アヴォーシカ」という名前が広まったのは1930年代。当時のお笑い芸人アルカージー・ライキンという人が劇場で用いた言葉から広まった、とも(参照:ソ連家族を育んだ魔法の杖・アヴォーシカ)。
しかし、もっとさかのぼると、ロシアの文豪アントン・チェーホフ(1860~1904)がフランス・ニースから妹に宛てた手紙に言及があります。
「網バッグを受け取ったかい? これは野菜用の網バッグなんだよ。こちらの料理人たちは、市場に行くのにこういうカバンを使っているんだ」
M.チェーホフへの手紙、1898年2月8日、『Полное собрание сочинений и писем(チェーホフ全集)』、手紙編7巻、162ページ
したがって、この形状のカバンというのは、ヨーロッパで古くから見られたものかもしれません。
しかし、名前の由来を紐解くと……
「アヴォーシカ」、ロシア語では「Авоська[アヴォースィカ]」と発音しますが、これには名前の由来があります。ロシア語の辞書を見てみましょう。
(万一のために持ち歩く折りたたみ式の)網目の買い物袋
参照:『研究社露和辞典』(研究社、1988年)
上のウィキペディアの定義との違いは、「万一のために持ち歩く」という部分。そう言えば、先述のロシア人の先生も「万が一見つかったとき」と言っていた!
実は、この部分がとても大事です。なぜなら……
「アヴォーシカ」の「アヴォーシ」(ロシア語で「авось[アヴォースィ]」)というのは「(希望的に)多分、ひょっとしたら/まぐれ当たり」(上記『研究社露和辞典』より)という意味があるからです。
その昔、現在のロシアの前身であるソ連が、バリバリにソ連だった頃、「物不足」という現象がありました。どんな現象かというと、「物がない」のです。記憶に新しいところでは、2020年のコロナ禍の初期に、日本でもトイレットペーパーが消えた、あの状態を思い出していただければと思います。
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しかし、旧ソ連ではトイレットペーパーだけでなく、様々なものが不足する状態が断続的に続いていました。ただ、もちろん、不足状態とはいえ、モノが全くなくなるわけではありません。食料品でも日用品でも、ある日突然(計画通りに?)運ばれてきて、町に現われます。そんな場面に万が一遭遇したら、「買える時に買っておかなくちゃ、もうないぞ!」となるわけです。
そんな時、この「ひょっとしてカバン」のアヴォーシカの活躍です。そもそもの前提として、買い物するときにビニール袋の無料配布なんてなかったので、「万が一購入できたものを運べるカバン」は常に必要だったのです。
上で言及したお笑い芸人のコントがこれを揶揄するものでした。
(ライキンの出し物である)ミニコント「アヴォーシカ」は、観客にお馴染みの都会の日常生活あるあるを描いていた。つまり、一般の労働者は、家を出るとき買い物用の網バッグを必ず2つ持って出かける。1つは必要なものが買えた場合のための「ひょっとしたらカバン(アヴォーシカ)」、もう1つは、必要でないけど、買いたかったものが見つからなかったので代わりに買ったものを入れる「根拠なしカバン(ナプラースカ)」だ、というものだった。
参照:ソ連家族を育んだ魔法の杖・アヴォーシカ
ロシア人らしさ溢れるコントです。実際には「ナプラースカ」という言葉はありませんが、こちらは「ナプラースナ」(ロシア語で”напрасно”、「無駄に、根拠なく」という意味)をもじってできた言葉ですね。いずれにしても網バッグはつねに持ち歩き、買いたいものに偶然出くわしたら買わなきゃいけないし、見つからなくても、何かあれば買わなきゃならないわけです(笑)
物不足が解消したはずの新生ロシアでは……?
1991年にソ連崩壊後、モノがあふれる時代がやって来ました。店飲食料品が並び、街路には盛りだくさんのものを詰め込んだキオスクが並び、新しいタイプの店(といっても、日本のスーパーマーケットタイプ)が出現……。
私が初めて訪露した1993年は、まだ無料のビニール袋なるものはほとんどありませんでした。路上のキオスクで買い物すると、荷物が多くなればそこで「パケーチク(пакетик)」を買います。いわゆる無料のビニール袋より、しっかりした大型のパケーチクです。日本なら、アパレル系のお店で買い物した後に入れてくれる、少し立派で大型のビニール袋といった感じ。(下は、またしても「もどき」です……30年前のパケーチクはさすがに取り置いてなかったです~(涙))
靴屋さん「mâRe mâRe DAILY MARKET」のパケーチクですね
(当時のパケーチクはこういうタイプ)
アヴォーシカが無期限に使えることを考えると、パケーチクは、しばらく使いまわせるという代物。
さらに、時代が下ると、ロシアでも無料のビニール袋が普及することとなり、なんだか、もう普通の国になってしまいました。納得というか、残念というか……(おい!)
そして、2021年現在
プラスチックごみ削減の世界的トレンドの中で……
本記事の最初に戻ることになりますが、全世界的なトレンドとして、プラスチックごみ削減の流れがあります。日本では2020年7月よりビニール袋が有料化となりましたが、ロシアではどうでしょうか?
(2018年)10月23日より、高級スーパー「アズブカ・フクーサ」がグリーンピースの実施するキャンペーン「ビニール袋と決別」に加わることになり、レジでビニール袋を配付することやめた。これでロシアの大型スーパーでは、無料でビニール袋が配布されることがなくなった。すでに「オーシャン」「Spar・ミドルヴォルガ」(Sparのフランチャイズ店)、「フクースウィル」が同様に配布をやめている。
参照:ロシアのスーパー、無料のビニール袋と決別
おお、スーパーでの取り組みは日本に先駆ていますね!
(しかし、日本のような「義務化」はまだのようです(参照:「ロシア産業貿易省、ビニール袋禁止に反対」(rbc.ru))。この辺り、なかなか興味深いことがありそうですが、深掘りするにはテーマがずれてしまうためこの辺で……)
現代のアヴォーシカ
ソ連崩壊後、そしてビニールの無料配布がある間は身を潜めていたアヴォーシカですが、現在はどうなっているのでしょうか?
現在、アヴォーシカは市場に買い物に行くためではなく、おしゃれなアクセサリーとなっている。ファッションショーに登場することもあり、様々なイベントで有名人が持っていることもある。すでに有名ブランドが作り始めているが、値段はソ連時代と違い二束三文というわけにはいかない。今のアヴォーシカは、色の種類も多く、飾りや付属品がついている。特に人気なのがハンドメイドのアヴォーシカだ。……
参照:アヴォーシカの歴史
すっかりおしゃれな姿になって復活ですね! さらには名称も「экосумка(エコスームカ)」、つまり「エコバッグ」という現代版にアップデートしているようです。
また、ロシア人によるエコバッグ製造会社もできています。「エコプロースト」という会社で、2014年に設立されました。当時ロシアにはメーカー会社がまだ1社しかなかったエコ包装の分野に、社長のルィブニコフ氏が目をつけ、現在軌道に乗っているとか。(参考:エコでエコノミー:買い物袋で1億ルーブル稼ぐ方法)
まとめ
日本では1992年に導入されていたエコバッグ、ビニール袋有料化に伴い、その存在価値を高めていますが、形も用途も同じものがロシアにはずっと以前からあったよ、というご紹介でした。
しかし、ロシア版エコバッグ「アヴォーシカ」の発生起源は古く、しかも物不足に備える生活の知恵から生まれたものでした。しかもその名も「ひょっとしたら(アヴォーシ)バッグ」(笑) ネーミングセンスがさすがです。
もっとさかのぼると、そもそもアヴォーシカのような形のものはヨーロッパの各地で少なくとも19世紀末には存在していたということまで分かりました。よく考えると、日本でも「買い物かご」なんてものがあったわけです(折りたためないけど)。ビニール袋無料配布というサービスが、現代の大量消費社会の産物だったわけですね。
今回この記事を書くにあたり、「авоська」をキーワードにネットサーフィンをしたのですが、画像検索アヴォーシカが色とりどりで、おしゃれ! 次にロシアに行ったときエコプローストのエコバッグを見つけたら、お土産にするのもいいな~。(2020年にロシアに行くつもりにしていたのに、見事コロナに打ち砕かれました(涙) だから現物の写真のご紹介ができませんでした(言い訳) 次、いつ行けるのかな~~~~~)
参照サイト
Wikipedia Авоська—2021年4月4日アクセス
Wikipedia マイバッグ運動ー2021年4月4日アクセス
Российские супермаркеты порвали с бесплатными пакетами(ロシアのスーパー、無料のビニール袋と決別)、グリーンピースロシア公式サイト(Greenpeace.ru)、2018年10月23日記事ー2021年4月4日アクセス
История авоськи(アヴォーシカの歴史)、サイト”История моды”、2018年11月29日記事―2021年4月4日アクセス
Экологично и экономично: как заработать 100 млн. рублей в год на пакетах и сумках для покупок、(エコでエコノミー:買い物袋で1億ルーブル稼ぐ方法)、サイト”biz360”、2019年6月27日記事―2021年4月5日アクセス
Авоська:она была кормилицей и палочкой-выручалочкой в каждой советской семье(ソ連家族を育んだ魔法の杖、アヴォーシカ)、サイト”RGRU”、2020年2月1日記事ー2021年4月4日アクセス
ПРАВДА И ЛОЖЬ О ДЕФИЦИТЕ ТОВАРОВ В СССР(ソ連の物不足、ウソ・ホント)、VichugaNew.ru、2020年2月14日記事ー2021年4月4日アクセス
Минпромторг выступил против запрета пластиковых пакетов(ロシア産業貿易省、ビニール袋禁止に反対)、サイト”rbc.ru”、2020年12月18日記事ー2021年4月1日アクセス