文化

ロシア人の家族観

家族の中に権威主義?!

この記事は「ロシア人のトリセツ」シリーズの中の1つとして書いているのですが、参考図書があります。

N.ヴォリスカヤ他著、”Можно? Нельзя? Практический минимум по культурной адаптации в русской сфере”(『OK? ダメ? ロシア社会での文化受容に必要な実用ミニマム』)、2004年、4刷、Русский язык. Курсы出版社

その参考書の一発目の話が「家族関係」なのですが、初っ端から

「権 威 主 義」

という言葉が出てきます。引用を見てみましょう。

伝統的なロシアの家族は、権威主義の原則に基づいて築かれる。そのような伝統的な家族の主となるのは、「一家の主」、つまり中間世代に属する男性である。(訳注二世帯家族を想定した定義で、祖父母―父母―子の中間世代、つまり「父」を指しています。)

出典:『Можно? Нельзя?..』(前掲書)、7ページ(拙訳)

家族の話かと思いきや、いきなり「権威主義」から始まるなんて……とってもロシア的( ゚Д゚)

ちなみに、「権威主義」とは……「必要以上に権威(者)をたてにとって世事に処そうとする態度・行動」という意味。(三省堂『新明解国語辞典(第6版)』より)

なんて息苦しい家庭生活なんだ、と目を剥きそうになってしまいますね。

これに対して、女性の役割は次の通り。

伝統的な家族内での女性の主な役割は、「妻」であり、「母」である。そのような家庭で家の秩序を保ち、食事の用意をし、子供を育てるのはまさに女性である。

出典:前掲書、7ページ(拙訳)

「男が稼いで、女が家を守る」~~~! なんだか、聞いたことのあるような家族観じゃないですか。

ロシア人の認識の中で、「理想的な家族」というのは、いくつかの世代(祖父母、父母、子供・孫たち)が一緒に暮らすような「伝統的な家族」である。

出典:前掲書、7ページ(拙訳)

ソ連時代は、好きな時に好きなところに住宅を構えるという自由がなかったため、1つのアパートに2世帯、3世帯で暮らすことが多かったことも影響しているのかもしれませんね。

そして、一緒に暮らす年長者に対する態度。

伝統的な家族において、年長者に対しては無条件で尊敬の念が抱かれるが、その世代に絶対的に服従するというものでもない。普通、年長者たちは、子供がたとえ大きくなっていようとも、その生活に干渉する権利があると考え、助言を与えようとする。

出典:前掲書、8ページ(拙訳)

なんだか、日本でもまったく同じ家族風景が描けるのは気のせいでしょうか?

日本は今ではすっかり核家族化が進んでいるので、ここに引用した家族観は「ちょっと古いな~」という気持ちになるのですが、実際のところ、ロシアでも状況は同じようです。

実際の生活では、この「理想」から大きく逸脱しています。(例えば、今の若者は両親から独立して暮らそうとしていたり、男性が「一家の主」とは限らなかったり、家族の中の「男性」と「女性」の役割分担の仕方が違っていたりします。)

出典:前掲書、8ページ(拙訳)

ロシア人の結婚・離婚

私たちが基礎にしてきた参考書『OK? ダメ?……』では、「結婚」のことまで踏み込んで書かれていませんでしたが、せっかくなのでロシア人の結婚観についても少し調べてみました。

全ロシア世論調査センター(VCIOM)というロシア国営の世論調査機関のアンケートに「結婚と同棲はイコールか?」というものがあります。

社会において「事実婚」という形態は十分容認可能だと考えられている(46%のロシア人、未婚の人に至っては56%がこれを正常とみなしている)。……一方、婚姻生活という伝統や規範もまだ根強く、45%がこのような関係を認められないとしている(60歳以上で55%、女性の間で52%、男性は38%)。

出典:VCIOM、2018年2月2日発表のアンケート調査「結婚と同棲:結婚と同棲はイコールか?」の結果より(拙訳)ー2019年9月19日アクセス

若い世代は結婚についてより柔軟に考えているので、この傾向は強まるだろうという予測が立てられています。

興味深い比較対象として、2013年版の『厚生労働白書』では、「絶対結婚すべき/した方がよい」という問いに賛成しているのが、日本は64.5%、アメリカ53.4%、フランス、スウェーデンは4割を下回るという結果が紹介されていました。

ロシアは、欧米の平均値というところでしょうか。

ただし、子供が生まれる前に正式に婚姻関係を結ぶべきという意見は71%を占めていているとのこと。(VCIOMの上記リンク内より)

日本人の私の目から見て「ま、そうだよな」という印象です。(コメントのしようがないくらい無難な結果に対する、無難な感想……(;^_^A)

また、離婚についても興味深いデータが見つかりました。下記の引用は、モスクワ弁護士会のサイト”Планета Закона”(法律惑星)より。

70年前には離婚は珍しいことであったが、2018年、ロシアの離婚率は65%であった。しかも、極めて否定的な傾向がみられる。今の状況が続くと、年々離婚の件数は増えていきそうだ。

モスクワ弁護士会HP”Планета Закона”、「数字で見る離婚―ロシアの離婚統計」(2019年7月18日の記事)(拙訳)―2019年9月19日アクセス

この統計を行ったのは「連邦統計局」となっていて、グラフも掲載されています。(……のですが、孫引きになってしまうことと、しかも弁護士会HPの情報を孫引き転載するのがちょっとナンだったので、グラフについては興味のある方はリンクで飛んでみてください。ロシア語だけど……)

それにしても……  65%!

これ、なかなか大きい数字に感じられるのですが、みなさんはどうでしょう??

ちなみに日本の離婚件数は2018年で約35%。70年前は珍しかったというロシアの離婚率は4%、日本は11%とのこと。(いずれも1950年の数値、参考:『家族と人口動態研究』2016.5.12(ロシア語原文)、平成30年(2018)人口動態統計の年間推計

70年前は日本の方がわずかに離婚率が高かったけれど、今やロシアの離婚率には追い付くべくもない……いや、追い付く必要は必ずしもないのでしょうが。

理想と現実

さて、われらの参考書に戻りますが、結局、上でも引用しましたが、「理想の家族像」と「家族の現実」というものには乖離があるのが現状ということが分かりました。

しかし、但し書きが載っています。

しかし、ここに挙げたステレオタイプ(訳注:いわゆる伝統的な家族像)は多くの点で、「普通の、あるべき家族関係」あるいは「異常な、そうあるべきではない家族関係」という価値観を決める大前提となっている。

出典:『Можно? Нельзя?..』(前掲書)、8ページ(拙訳)

「例えば、妻が夫より稼いだり、妻の方が社会的地位が高かったり、妻が家のことよりキャリアを優先したり……すると、「異常で」あるとみなされる……」(同8~9ページ)。

つまり、価値観というものは簡単には変えがたいということ。

「いかにも伝統的な家族像」――年長者を敬って、男が主(あるじ)で、女が家を守る――このあたりは日本の伝統的な価値観(古き良き価値観?)に通じるものがあると感じることができるのではないでしょうか。

(た・だ・し! 万が一、ロシア人美女との結婚を夢見ながらこれを読んでる男性諸君がいるならば、ロシア人女性は日本の「夫唱婦随」では決してないことを肝に銘じること!! ロシア人女性はプライドが高いと思います。気高いという意味で。←ちょっとフォロー……(汗)

そして、若者の価値観が急速に変わってきているという現状も、日露の間で大きな差はないように見えます。

しかし、日露の離婚率の開きは目を見張るものがあります。これはつまり、価値観はどうあれ、ロシア人の方が行動を起こしているということ。行動を起こせば、価値観の変容はついていきます。そういう意味で、ロシアの方がリベラル化の速度が速い印象ですね。

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