文法・品詞別(名詞)

名詞について④(名詞の格)

名詞の格

名詞の話はまだ続くのか、と思われた方、本記事の「格」が名詞の話の中でも一番大きい内容となりますので、御覚悟を。

そもそも「格」って、何?

ざっくり言うと、「格」とは「文の中で名詞と他の語の関係を示すもの」です。

はい、わっかりませーん

ま、そうですね。まずは、我らの母語である日本語で格の考え方を見てみましょう。

日本語にもある格

まずは例文を見てみましょう。

「桃太郎にキビダンゴを作った。」

もちろん、意味は分かりますよね? 単語ごとに区切ること……できますか?

  • 「桃太郎」……知らない人はいない物語の主人公ですね。簡単に言うと、人の名前です。名詞です。
  • 「キビダンゴ」……おばあさんが作ったアレです。岡山名物のアレです。食べ物の名前です。つまり、名詞です。
  • 「作った」……この例文ではワケあって誰が作ったのか書いてませんが、何やら動作を表しています。動作を表す……つまり、動詞です。

ちなみに、「作った」は、厳密には1つの単語ではありません。「作っ(作る)」が動詞部分、「た」が動作が行われたのが今じゃないことを表していて、こちらは助動詞と言います。

さて、残っている部分がありますね。「に」と「を」です。これは何でしょうか?

桃太郎にー、キビダンゴをー、作ったんですよね♪

言いたいことは分かりますが、強調しただけで説明になっていませんね(苦笑)

えっと、つまりー、「を」は作ったモノを表してて、「に」は誰に作ったか、作ってあげた相手を表していると思います

そうですね! これはつまり、「桃太郎」(名詞)という人と「キビダンゴ」(名詞)という物が、「作る」(動詞)という動作とどう関係しているかを表している訳です。英語では目的語とも言いましたね。

実は日本語では、この「を」と「に」が格を表しています。格助詞とも呼びます。格助詞は他にもありますが、日本語はひとまずこの辺で置いておきましょう。

ロシア語の格

ロシア語には、この「単語と単語の関係を表すもの」(=格)が6つあります。

  • 主格
  • 生格
  • 与格
  • 対格
  • 造格
  • 前置格

各格(カクカクw)の表し方については、別記事にして個別に見ていきますので、ここでは概要(基本の形と意味)だけお話しします。

主格

1つ目の格です。これは、みなさんがまず最初に覚える単語の形です。

これまで、名詞ので出てきた単語を思い出してみましょう。

чемодан, виза, блюдо, часы

順に「スーツケース(男性名詞)、ヴィザ(査証)(女性名詞)、料理(中性名詞)、時計(複数名詞)」

これらはすべて主格形です。特徴をざっと挙げるとすると、こんな感じ。

  • 辞書に出てくる形
  • 単数であれば、名詞の性を見分けるのに便利な形

主格形の詳細は、こちら

生格

「生む格……」 もはや、この名称から何のイメージも浮かばないですね(笑)

生格の意味は、一言で表すのが難しいのですが…… とりあえずは、日本語の「の」ということにしておきましょうか。(この説明、誤解を招きやすいので、なんとかしたいのですが、他に簡単に言いようがない!)

例えば、ここにボグダン(Богдан)という人がいたとします。バクダンじゃないです、ボグダンです。(ボグダンという名前の話はこちら)

「ボグダンスーツケース」をロシア語にするとこうなります。

чемодан Богдана
チマダーン          ボグダー

ボグダンという人の名前が「ボグダナ」となってしまいました!

こういう名詞の変化が生格形です。

名前の後ろに「а」を付けたらいいのか~。男性の名前なのに、女性の名前みたいになっちゃいますね

そうですね。でも、もちろん女性に生まれ変わったわけではありません。

人の名前以外でも同じことが起こります。例えば……

дно чемодана
ドゥノー  チマダー

「スーツケース底」(дно=底)という意味です。今度は「スーツケース」が変化しましたね。変化しましたが、чемоданаはもちろん、女性名詞に生まれ変わっていません。これは、男性名詞の生格形です。

上の主格のところでも書きましたが、主格以外になると「名詞の性を区別するのが大変になる」というわけです。

また、語順も気になる方がいるかもしれませんが、「の」以外の意味や、語順については、別記事に譲ります。

生格形の詳細はこちら

与格

この格は、漢字から推測しやすいのではないでしょうか。

「与える格」、つまり「~に」を意味しています。英語では間接目的語とも呼ばれていたやつです。

例文を見てみましょう。

Я купил Богдану чемодан.
ヤー クゥピール   ボグダーヌゥ  チマダーン
「僕はボグダンスーツケースを買った」

またしても、ボグダンという名前が変化しました! 今度は「Богдану」となりました。これが、買ってあげた相手を表しています。これが与格形です。

ちなみに、「я」は「私、僕」、「купил」は「買った」です。

与格形の詳細はこちら

対格

いわゆる「(直接)目的語」です。日本語で言うなら、「を」に近いです。多分、一番わかりやすい格です。一番わかりやすいけれど、一番混乱しやすい格でもあります。

例!

Я купил Богдану чемодан.
ヤー  クゥピール  ボグダーヌゥ   チマダーン
「僕はボグダンにスーツケース買った」

先ほどと同じ例文ですが、注目すべきは「スーツケース」の方。

今回は何も変化してませんね

そうなんです。見た目上は、何も変化してません。つまり、主格形と同じ。でも、この文を見ると、「買った」という動詞が入っています。

人から突然、「買ったよ~」なんて言われたら「何」買ったか気になりません? うん、気になりますよね(強引)

つまり、「買う」という動詞には「何」に相当する直接目的語(対格形)が必要です。なので、ここでは「スーツケース」は目的語であり、対格形となっています。ただし、見た目は主格形と同じなのです。

しかーし。

次の例を見てみましょう。

Я купил Богдану кота.
ヤー クゥピール   ボグダーヌゥ   カター
「僕はボグダンにオス猫買った」

「кота」は「オス猫」という意味です。ちなみに、「オス猫」の主格形(辞書形)は「кот」です。

あれ、最後に「а」を付けるって……生格形じゃなかったっけ?

そうです。見た目上は生格形に見えますよね。しかし、先ほども言ったように、「買う」という動詞には「何」にあたる対格形が必要です。そして、実はこの「а」を付けた形が対格形なのです。

うーん、ややこしい……

なぜ2種類あるかというと、ここで「活動体」「不活動体」の区別が大事になってきます。(→名詞について③(活動体・不活動体)

以上をまとめると、こうなります。

  • 不活動体名詞(モノ)の対格形……主格形と同じ
  • 活動体名詞(ヒト)の対格形……生格形と同じ

対格形の詳細はこちら

造格

生格と同じように、一言では説明しにくい格なのですが……ひとまず「~で」と言っておきましょう。

Богдан ударил меня чемоданом по голове.
ボグダーン  ウダーリル    ミニャー   チマダーナム     パ ガラヴィェー
「ボグダンは私の頭をスーツケース殴った」

よい例文が思い浮かびませんでした……。ボグダンは悪い人ではありません。ちなみに「ударил」は「殴った」、「меня」は「私を」、「по голове」は「頭を」(説明は省きますが、殴った部分を表現している)です。

この例文では、「ボグダン」は変化していません。動作主=主語なので、主格形のままです。「スーツケース」は「чемоданом」と変化しました。これが造格形です。

造格形の詳細はこちら

前置格

名前の通り、「前置詞」と一緒に使う格です。意味は「前置詞」によって決まりますので、「前置格の意味はこれです!」と言うことができません。

例文を見てみましょう。

Кот на чемодане.
コートゥ  ナ  チマダーニェ
「オス猫はスーツケースの上にいる」

「на」は前置詞で、ここでは「~の上に」という意味です。前置格形となったスーツケース(「чемодане」)と合わせて、場所を表しています。もう1つ例文。

Кот в чемодане.
コートゥ  フ  チマダーニェ
「オス猫はスーツケースの中にいる」

「в」は前置詞で、ここでは「~の中に」という意味です。以下同文。

注意すべきことが1つあります。前置格形は必ず前置詞と共に用いるのですが、前置詞が付いていれば、その後は必ず名詞の前置格形が来るかというとそうではない、ということ。つまり……

  • 名詞の前置格形 → 前には必ず前置詞がある 〇
  • 前置詞がある → 後には必ず名詞の前置格形 ✕

前置格形の詳細はこちら

名詞の格(まとめ)

ここでは、男性名詞のБогдан「ボグダン」とчемодан「スーツケース」を中心に、格の概要を見ていきました。

主格 Богдан чемодан
生格 Богдана чемодана
与格 Богдану чемодану
対格 Богдана чемодан
造格 Богданом чемоданом
前置格 Богдане чемодане
単語を覚えるだけでなく、こういう変化も覚えていかないといけないんですね

そうです。そして、本記事で見てきた格の変化は、「男性名詞の中の1つのタイプ」です。逆に言うと、まだいくつか変化のタイプがあるということです。

男性名詞の、ということは、女性名詞と中性名詞の変化もあるんですか?

そう。男性名詞と女性名詞の変化のしかたは、だいぶ違います。さらには、複数名詞の変化もあります。

オー マイ ガッ

名詞の変化でねを上げていてはいけません。動詞も変化しますし、形容詞も変化します。ほとんど修行のようです。でも、あなたのチャレンジ精神を試すツールとしてはもってこいですよ(笑)

以上、名詞の格でした。

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