教科書

これは独習教科書の王様やー!

『ニューエクスプレスプラス ロシア語(CD付き)』、黒田龍之助著、白水社、2018年

教科書は語学学習の第一歩

みなさん、初めての英語の先生のこと、覚えていますか? 私は、英語の先生の発音のよさに驚いたことを覚えています。私が英語を学んだ中学時代は、「国際社会」の「こ」の字も身近に感じることがなかったため、「日本語以外に言語があるんだー!」と初めて意識した瞬間でした。さらに、高校時代の英語の先生のアクの強さ(笑)にやられて、英語の勉強にのめり込んでいきました。外国語学習は誰に習うかというのはとても大事です。

これが、独習の場合、入り口となるのは教科書選び。

書店(町の大きな本屋さん!)に行くと分かりやすいのですが、ロシア語関係の教科書の少ないこと……。日本人が勉強する外国語ぶっちぎりトップはやはり英語、続いて中国語、韓国語。これらの言語の教科書は本棚数ブロックから、通路を挟んで並んだ両サイドの本棚びっしり並んでいることも。

とはいえ、マイナー言語の中でロシア語は健闘している方といえます。特にここ数年、ロシア語の初級者向け教科書が激増中です。

そんな中、特にお勧めしたいのが、『ニューエクスプレスプラス ロシア語』です。

おすすめポイント① 出版社と著者

まず、「エクスプレスシリーズ」といえば白水社。これは語学書を手広く扱う老舗で、語学学習書の大ベテラン出版社です。さらにこのシリーズは、どえらいマイナー言語も取り扱っていることで有名。アイスランド語、アイヌ語からロマ(ジプシー)語まで!

シリーズに共通しているのは、いずれも20課構成で、見開きで会話文中心の本文と単語のページ、次の見開きで文法説明、計4ページで1課を成しています。この構成は厳密にどの言語・どの課でも守られています。

これは、とても大事なことだと私は考えています。外国語を学ぶのはスポーツに例えられることがありますが、エクスプレスシリーズには一定の型にそって学習を積み上げていくという、スポーツ選手のトレーニングのような一貫したスタイルがあります。外国語の教科書では、課毎の構成が一貫しているのは当たり前に思われるかもしれませんが、ページのレイアウトまで一貫させているのは、ロシア語の教科書では少ないといえます。

加えて、著者が黒田龍之助さんですよ。黒田さん!

え、黒田さんを知らない? あんたモグリか?

……いえ、失礼。黒田さんは、言語学会、ロシア語界隈のカリスマです。教科書だけでなく、言語にまつわるエッセーもたくさん物されていて、大人気の作家さんでもあります。

すでに大人気であるため、わざわざ紹介なんてする必要もないくらいなわけですが……。

私だって「良い」ものを「良い」と声を上げていいたいのです!

おすすめポイント② キャラが立っている

各課の本文は会話仕立てになっています。主な登場人物は、日本人学生ツバサ君、ホームステイ先のナターシャさん、彼女の友だちリューダさん。

ツバサ君は日本でロシア語を勉強していたようです。アンナ先生に留学先の相談をするところからストーリーが始まります。ロシアではステイ先のナターシャさんとのやり取り、リューダさんとの交流を経て、日本に帰ってくるまでが描かれています。

……と、何でもないような筋立てですが、ツバサ君のキャラが立っている!

文学一筋らしい真面目な好青年。日本でロシア語を学びましたが、日本ではロシア語を一言も話したことがなかったというツバサ君ですが、ロシアに到着すると、日本で覚えたであろう表現を器用に使いこなす有能さ。(一説では、「これ黒田さん自身じゃね?」と言われているそうですが、「違う!」と著者がおっしゃってるとも伝え聞いております(笑))

他の登場人物も見逃せない。特にホストマザーのナターシャさん。典型的なロシア人のイメージにぴったりです。まず、空港に迎えに来ていると思いきや、来ていない。(ロシアあるある……) ツバサ君に部屋を案内するときの謙虚さといい、勉強中(執筆中)にズカズカとやって来て質問攻めにするところといい‥…(ロシア人は好奇心が強く、世話好きです!) それだけでなく、リューダさんとの恋の予感? ナターシャさん夫婦の危機?! と、イベントが盛りだくさん。各課にはオチも付いているという手の込みようです。

考えてみてください。これ、ゼロから外国語を学ぼうとしている人に向けた教科書なんですよ。限られた語彙・文法の中からこれだけのストーリーを紡ぎ出した黒田氏に脱帽です!

おすすめポイント③ 即戦力!

内容の面白さだけでも、教科書としては価値が高いと思いますが、すごいのはそれだけではありません。

即戦力になるような実践的表現がてんこ盛りです。

例えば、第1課より。

Значит, отец — японец, а мать ー русская.

つまり、お父さんは日本人で、お母さんはロシア人なのですね。

『ニューエクスプレスプラス ロシア語』、18ページ

「Значит(つまり)」を第1課から持ち出す教科書、そんなにありません。そもそもこの表現を取り上げる教科書が少ないかもしれない。しかし、これを覚えておけば、初学者が自分の理解したことを「つまり、こういうこと?」と聞き返すことができます。つまり、とても便利な表現です!

あるいは、第5課。

Я сам не знаю.

自分でも分からないんです。

『ニューエクスプレスプラス ロシア語』、41ページ

単に「知りません」というだけでなく、「自分にもわからない」という表現にしているところがミソ。実際、この教科書を使って授業をしたところ、学生はこの表現を喜んで使ってくれます。

また、会話を丁寧表現ベースで進めているのも好ましい点のひとつ。ロシア語では、丁寧に話すべき相手には「вы」(あなた)を用い、友達同士の間では「ты」(君)を用います。一般的な教科書では、「ты」も覚えてもらいたいせいか、中途半端に「вы」と「ты」を織り交ぜた用例が紹介されるのですが、ゼロからイチを目指す初期の学習者には混乱でしかありません。まずは「вы」をしっかり覚えておきなさいという、親のしつけ心が感じられます。

ロシア語ゼロからイチにするにはこれ一択!

いやはや、たかが教科書で熱く語ってしまいました。実はまだまだ語り尽くせてはいません。書ききれなかったことについて、個別に記事を書いてしまうかも(笑)

ロシア語、ちょっと気になるという方は、これ一択です。エッセイストとしても腕を鳴らした黒田氏の軽妙な語り口による説明で、難しいといわれるロシア語文法も怖くない!

万が一、文字を覚えるのすら億劫だなぁという方には、姉妹版(?)のこちらもおすすめ。

『集中講義のロシア語』、黒田龍之助著、白水社、2020年

エクスプレスシリーズのイラストと同じツバサ君が登場します。きっと、日本でロシア語を勉強していたころのツバサ君なのでしょう。『集中講義』でツバサ君と一緒に勉強すると、ロシアに出かけるころにはすでにペラペラかも……?!

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