勉強法・読書雑記など

映画「T-34 レジェンド・オブ・ウォー」(原題「Т-34」)を観てきたけれど……(ネタバレにご注意)

2019年、ロシアで大ヒットの戦争映画

日本で上映されるロシア映画はそんなに多くないので、日本で公開されるようなときにはなるべく観に行くようにしています。

私の住む地域では先月(2019年11月)上映されていました。しかし、この映画の上映情報を聞いた時すでに上映期間の半分を過ぎていた上に、私自身が戦争映画フリークではないため、すぐには食指が動かされませんでした。しかし、ロシア映画ということで一応調べてみました。

ロシア映画史上最高のオープニング成績を記録! 最終興行収入は40億円を超え、観客動員800万人という驚異的な数字を叩き出し、2019年全“露”No.1メガヒット

T-34公式サイト

ほほう、観客動員800万人、興行収入40億円…… 「大ヒット」と書いているので大ヒットなのでしょうが、私には数字的にピンとこないので、2018年の「映画概況」なるものを見てみました。

邦画の第1位は「劇場版コード・ブルー ―ドクターヘリ緊急救命―」の93億円、第2位は名探偵コナン ゼロの執行人」の92.8億円、そして第6位に「万引き家族」の45.5億円。(情報は日本映画製作者連盟の「2018年(平成30年)全国映画概況」より)

なるほど、「万引き家族」に並ぶのですね! これは観に行きましたよ~。面白かった!

しかし、「万引き家族」の観客動員数は375万人(cinefil、2019年2月23日記事より)ということなので、これと比べると観客動員800万人というのは確かにすごい。

そして、ロシアの有名な映画監督ニキータ・ミハルコフも製作に関わっているとのこと。また、映画レビューアプリの「Filmarks」で「T-34 レジェンド・オブ・ウォー」を検索してみると、なんと☆4.1! (2019年11月14日現在)

4点を超える映画という期待を胸に観に行くことに決めました。

はじまりは雪原から……

以下、ネタバレにご注意!

1941年初冬、雪原に敵の戦車が現れ、主人公が戦車の攻撃から命からがら逃げるところから始まります。戦場に出たての若いイーヴシキンは、前線に到着したとたんに当時の最新型戦車T-34の指揮を命じられます。この指揮を命じた上官がまた痛々しいくらいの大けがで……。

うんうん、戦争映画だ~と徐々に気持ちが映画に入っていきました。そこで、この上官がイーヴシキンにささやきます。

Ни пуха, ни пера!(ニ・プゥハ ニ・ペラー)

これに対しイーヴシキンは上官にこう答えます。

К чёрту!(ク・チョールトゥ)

意味するところは……

上官「成功を祈る」
イーヴシキン「ありがとうございます」

しかし、文字通りに解釈するならこんな感じ。

上官「どうせ獣も鳥も取れねーべ!」
イーヴシキン「悪魔のところへ行きやがれ!」

ロシア人は、現実的でありながら、迷信深い一面も持っている人たちで、これもその迷信にまつわる表現です。

元々は狩猟のときに使われていた表現。「獲物がたくさん獲れますように」という、いわゆる願掛けです。

しかし、猟師に向かって「たくさん獲物が獲れるといいですね」なんて言おうものなら、森の精霊たちの邪魔に合ってしまいます。(これを「邪視」という) 精霊たちを欺くために、「獣も鳥も取れない!」という願いを掛けて、安心して狩りに出かけるわけです。さらに願掛けを強力なものにするため、この願掛けをされた猟師は「悪魔のところへ行きやがれ!」(「うっせー!」ぐらいの意味)と返事しなければなりません。

……この論理、理解できます?

正直、私が初めてこの説明を聞いたとき、「ロシア人は正気でこれを言っているのか?」と首を傾げたものです。しかし、ロシアの異教文化のことを知るようになり、こういう考えが生活に根付いているロシア人を今では愛おしく思います。

この表現は現在、試験や手術など「成功」を祈願するようなときに使います。「К чёрту!」という表現は、普通であればかなり乱暴な表現ですが、この願掛けにおいては目上の人に対しても使うことが許されます。

……という説明を教科書などでは見たことあったのですが、「T-34」で現場を見ることができました!(私にとって、この映画序盤の感動ポイント)

軍隊付き通訳アーニャ

もう1つ印象深かったのは、軍隊付きのロシア語通訳アーニャ。ロシア語版Wikipediaの「Т-34」によると、彼女は「Ostarbeiter」(東の労働者)で、ナチス軍によって東ヨーロッパから安い労働力として強制的に連れて来られた一人ということです。ここではロシア人捕虜に対しドイツ語をロシア語に通訳させられています。

「ここにお前たちの思考や感情はない!」
「ドイツ人がお前たちの生死を決める!」

こんなことを同胞に向かって大声で通訳させられるのです。

時は1944年、ナチス軍の捕虜となっていたイーヴシキンですが、集団捕虜の中で一人だけドイツ人の命令に従いません。アーニャはここで通訳をしていました。

名前と身分を聞かれても頑に答えない彼に銃が向けられたとき、アーニャは「お願い、答えて……」とドイツ人が発した言葉以外の、自分の言葉を発します。なかなか緊張する場面です。

このあと、相変わらず身元を明かさないイーヴシキンはひとり別室で拷問を受けます。その通訳としてアーニャが再登場。イェーガー大佐(1941年の戦場でイーヴシキンと戦い、彼を打ち負かしたまさにその男がここでイーヴシキンと再会)は、言うことを聞かなければ殺す、とアーニャに銃を向けます。そして、アーニャはその最後のテンカウントを泣き崩れながら自分で通訳する……。

戦争というのは国と国の関わりなので、通訳は極めて重要な役割を果たすわけですが、なんと辛い仕事か。この映画で最も心を締め付けられた瞬間です。

Т-34との再会、娯楽映画への急展開

イェーガー大佐の引き抜きで、イーヴシキンは再びT-34の操作を任されることになりました。

ところで、このT-34という戦車は次のように評されています。

機動力、避弾経始に優れた防護力を持ち、そのバランスのとれたデザインは第二次世界大戦の戦車では最高傑作

『機甲戦の理論と歴史』(ストラテジー選書10)、葛原和三著、芙蓉書房出版、2009年、35ページ

戦車は装甲の重みに耐えつつ、機動力を失わず、なおかつ敵の戦車を撃破できなければなりません。Т-34という中戦車は、そのすべてを兼ね備えていたため、第二次大戦時の戦車兵たちは口をそろえて褒めたたということです。(参照元:「戦車兵の目から見たT-34の伝説と真実」、MK.RU、2019年5月9日記事

その機動力を強調するシーンが、目を見張ります。

重量感たっぷりの戦車が片輪走行をする上に、バックミュージックが……

白鳥の湖!(byチャイコフスキー)

お、おう! すごいな! 戦車を白鳥の湖でイメージさせるのはロシア人しかできないでしょう! 防御性に機動性が加わっていることを見事に表している?!

……と圧倒される一方、それまでの戦争の重苦しい雰囲気が吹っ飛んでしまいました。戦車の修理シーンも何やら開放的でしたし、イーヴシキン・チームの会話も何か楽天的なものを感じるくらい。

どんな状況でも楽天性を失わない強さがロシア人の持つ民族性の中にあるとは思いますが、ともかく、T-34との再会後、この作品は一気に娯楽色を強めます。タイトルが「T-34」なので、この路線が最初からの狙いだったのかもしれませんが……。

ちなみに、実際のT-34は賛美されるばかりでなく、戦車兵ならではの悩みもあったようです。

……T-34はとてもうるさかった。400馬力の戦車用ディーゼルエンジンの音に、キャタピラの轟音と独特な金属音が加わるのだ。(拙訳)

「戦車兵の目から見たТ-34の伝説と真実」、MK.RU、2019年9月15日の記事

戦争当初、戦車の製造条件が悪く、キャタピラにゴムが施されず、剥き出しのキャタピラが轟音を立てていました。そのため、遠くを走行していても「T-34が来たぞ!」と知られてしまうほど。戦車内にいる兵士達は互いの声を確実に聞き取るために「特殊な通話装置」を使っていたそうです。しかし、その装置の働きも今ひとつなので、結局、機転のきく乗組員司令官は、操縦士の右肩を軽く足で蹴ると『右に曲がれ』、左肩は『左』、背中を蹴れば『加速』、ヘルメットを叩けば『止まれ』と指示を出したりもしました。1943年には改良型が出て、キャタピラにゴムが装着され、大幅に静かになったそうです。(映画では、イーヴシキンの最初の戦車が旧式、ドイツ陣営で乗り回したのが改良型)

また、次のような欠点も。

旧式タイプのТ-34に搭載された4段ギアボックスのレバーは非常に硬く、変速切り替えをするのに信じられないほどの力を込めなければならない。操縦士一人では切り替えられず、隣に座る無線担当の銃兵が手伝わなければならないこともしばしばであった。(拙訳)

「戦車兵の目から見たT-34の伝説と真実」(上掲)

私は映画鑑賞時にこの観点から見ていなかったので、どのような描かれ方をしていたかはっきりと覚えていないのですが、戦車内での会話や操縦はだいぶスムーズだったように思います。あるいは、後半に描かれていたものは1943年以降のТ-34-85(85mm砲の砲塔を備えたT-34)で幾分改良されたものだったのかもしれません。戦車マニアたちはこういうところをチェックして楽しんでいるのかもしれませんね。

T-34、いらないシーン3選

  1. 砲弾スローモーション
  2. アーニャとのラブシーン
  3. イェーガーとの握手

❶ 砲弾スローモーション……実際にあった戦争の、しかも史実に基づいたというストーリーの中で、現代的技術を用いて迫力、攻撃性を強調するセンスが理解できん。しかも、この技術を濫用している嫌いがあります。

❷アーニャとのラブシーン……アーニャの存在は確かにこの映画の華でした。彼女の置かれた状況の辛さは、通訳シーンで遺憾なく描かれていました。しかし、イーヴシキンとの恋の目覚めはあまりにも安易。アーニャにもここに連れてこられるまでの生活があったはずです。(恋人や夫がいたかもしれない) そういう過去を完全に無視する形になり、興醒めでした。なんなら、緊急時に目覚める動物的な本能とも言えるラブシーンを、しかも終盤に持ってきて、主役のТ-34すらをも霞ませてしまったように思います。(「タイタニック」の方がまだマシ)

❸イェーガーとの握手……正直なところ、私はイェーガーがイーヴシキンを道連れにするのかと思いました。ところが、すっと手を離し、逆に戦車ごと彼が落ちそうになっても、イーヴシキンは手を伸ばすこともなく……。戦場の男たちの熱い友情? ナチスにもこんな甘ちゃんがいたということが言いたいのか?

終盤になるにつれ、アメリカ映画を観に来た気分になりました……。

結局のところ、☆4の期待を胸に鑑賞を終えた私の評点は3点未満! なぜ☆4.1なのか? 謎です。

全くの余談ですが……

動物学者が、脇腹に大きく黒い文字でТ-34と書かれた白くまが現れたことについて説明している。毛をダメにされた熊が映ったこの動画は12月2日にSNSにアップされた。(Newsbox24、2019年12月2日配信記事)

この映像は2019年12月1日にロシア最北の地チュコートカで撮影されたものです。(投稿者は世界自然保護基金WWFのスタッフ)

以下は、この投稿を見たロシア科学アカデミー極東支部生物学問題研究所の上級研究員アナトーリ・コチニェフのコメント。

動画がどこで撮影されたかは、目下のところわかっていません。私は、チュコートカでこのような場所を知りません。今年、ノーヴァヤゼムリャー列島では熊騒動が起こっていました。おそらく、冬に向けて捕獲・固定化の措置が取られていたのでしょう。しかし、その作業をするのは研究に携わる人間ではなく、ひょっとすると心ない人間がいたのかもしれません。(拙訳)

「誰が白熊にT-34を書いたのか」、RIAノーヴォスチ、2019年12月2日配信記事

幸い「塗料は簡単に落ちる」(上記RIAノーヴォスチ記事より)とのことですが……。

記事では、映画「T-34」との関係性については全く触れられていません。しかし、ロシアで今年公開された映画のタイトルであり、国内で大ヒットだったことを考えると、悪ふざけと受け取りたくなってしまいます。私は映画を見に行った直後だったから、なおさらそう感じるだけ、とも思えません。

結局、史実に基づいたストーリーという重みとは裏腹に、映画からはほとんど何も得られることなく、最後の白熊のニュースが一番印象的となった、そんな作品でした。

COMMENT

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です