Contents
名詞の数
「数」は「すう」と読みます。
英語を勉強した方は「複数形には≪s≫をつける」と習った覚えがあるのではないかとないでしょうか? その「単数・複数」のことです。
- 単数……「1つ」
- 複数……「2つ以上のもの」
ロシア語にもこの「単数・複数」があります。ここでは、この「数(すう)」の話です。
ただ、ここから先を読むには、「名詞の性」を分かっていなければなりません。そのためまずはこちらをお読みください。
単数について
「単数」とは「1つ」ということです。
英語であれば冠詞の「a」か「the」がつくところですが、ロシア語には冠詞はありません。
しかーし!
名詞の性があります。男性名詞、女性名詞、中性名詞の3種類です。(名詞の性について)
つまり、ロシア語の名詞の単数とは……
- 冠詞がなくとも「1つ」を表す
- 単数であれば性がある
こういった特徴を持っています。
複数について
では、複数形は? 英語は「s」を付ければよかったのですが、ロシア語はどうでしょう?
結論から言うと、名詞の性によって複数形の作り方が変わってきます。
男性名詞の複数形
まずは男性名詞。
男性名詞の複数形の作り方は、次の通り。
- いわゆる普通の子音で終わる場合……「ы」をつける
- йで終わる場合……「й」を「и」に変える
- ьで終わる場合……「ь」を「и」に変える
具体例で見てみましょう。
- чемодан 「スーツケース(1つ)」→ 複 чемоданы
- билет 「チケット(1枚)」→ 複 билеты
- музей 「美術館(1件)」→ 複 музеи
- обычай 「習慣(1つ)」→ 複 обычаи
- водитель 「運転手(1人)」→ 複 водители
- шампунь 「シャンプー(1つ)」→ 複 шампуни
注目すべきは下線を引いた部分です。
❶のタイプの男性名詞は、語末に「ы」を付け足すだけでした。
❷❸のタイプの男性名詞は、語末の「й」または「ь」を取り除いて、「и」をつけました。
この「ы」とか「и」を「語尾」と言います。
※単語中、赤文字の場所にアクセントがあります。
女性名詞の複数形
女性名詞を複数形にするにも、語尾「ы」、「и」を用います。
- 語末に「а」がある場合……「а」を「ы」に変える
- 語末に「я」がある場合……「я」を「и」に変える
- 語末に「ь」がある場合……「ь」を「и」に変える
具体例を見てみましょう。
- виза 「ビザ(査証)(1通)」→ 複 визы
- СИМ-карта 「SIMカード(1枚)」→ 複 СИМ-карты
- тётя 「叔母(1人)」→ 複 тёти
- неделя 「週(1週)」→ 複 недели
- цель 「目的(1つ)」→ 複 цели
- болезнь 「病気(1つ(?))」→ 複 болезни
男性名詞の❷❸のパターンと同じように、女性名詞の最後の「а」と「я」を取り除いて、複数の語尾を付けなければなりません。
中性名詞の複数形
では、中性名詞の複数形です。
結論から言うと、男性名詞と女性名詞の複数語尾とは違う語尾を使います。中性名詞を複数形にする語尾は「а」と「я」です。
- 語末に「о」がある場合……「о」を「а」に変える
- 語末に「е」または「ё」がある場合……「е」または「ё」を「я」に変える
- 語末に「мя」の場合……「мя」を「ена」に変える
❸は特殊なのですが、ロシア語中を探しても「мя」で終わる語が10個しか存在しないので、特例として覚えるのがよいでしょう。
では、具体例を見てみましょう。
- блюдо 「皿、料理(1枚)」→ 複 блюда
- лекарство 「薬(1つ)」→ 複 лекарства
- веселье 「お祭り気分(1つ(?))」→ 複 веселья
- воскресенье 「太陽(1つ)」→ 複 воскресенья
- имя 「名前(1つ)」→ 複 имена
- время 「時間(1つ(?))」→ 複 времена
女性名詞と同じく、最後の「о」と「е」を取り除いて、中性名詞用の複数語尾「а」と「я」を付けます。
複数形しかない名詞
中には複数形しかない名詞もあります。
具体例から見てみましょう。
- часы 「時計」
- бусы 「ネックレス」
- пельмени 「ペリメニ(ロシアの水餃子)」
- ворота 「門」
- коренья 「根菜類」
各単語の最後の部分を見ると、「ы」とか「и」とか「а」とか「я」とか。複数を表す語尾がついていますね。
これらはすべて「複数形しかない名詞」です。
気を付けないといけないのは、「ворота」は、一見すると「「а」で終わってるから女性名詞だ~」と考えたくなってしまうのですが、これは複数名詞です。名詞の性の区別は、比較的簡単と言っておきながら、一筋縄ではいかないものですね。
また、「名詞について①」で、名詞には性があるという話をしました。複数名詞の性別は何だろう? と思われた方、するどい!
実は、名詞の複数形の性別は明確ではなく、判断するとしても「多分、男(または女、または中性)?」までが関の山です。
例えば、上の例の「ворота」の「а」は、中性名詞の複数語尾なので、「ворота」は「ま、中性名詞なのかな~~~」と考えられます。しかし、この語は複数形でしか用いないため、単数の特徴であった性の区別を明確にする必要がありません。
男性名詞と女性名詞の複数語尾は「ы」と「и」だったので、この点でも複数名詞の性別はあいまいです。ただ、「男性かも?」、「女性かも?」を判断できるポイントもあるのですが、それについては、いずれまた……。
名詞の数(まとめ)
表にまとめてみましょう。お馴染みの「表」です。
名詞の種類 | 特徴(複数語尾がどうなっているか) |
---|---|
男性名詞 | 一般的な子音にはыを付ける й、ьで終わる語は、й、ьをиに変える |
女性名詞 | аで終わる語は、аをыに変える я、ьで終わる語は、яをиに変える |
中性名詞 | оで終わる語は、оをаに変える еで終わる語は、еをяに代わり мяで終わる語は、мяをменаに変える |
複数しかない名詞 | ы、и、а、яで終わる語で、この形が辞書の見出しになっているもの(а、яで終わるものは、女性名詞と間違えないように) |
名詞の複数形、英語では「s」をつけるだけというシンプルさでしたが、ロシア語は性も絡んでややこしいですね。
さらに、注意点がいくつかあります。以下、少し長くなりますので、疲れた方はここで切り上げてもかまいません。まずは、上の複数形の基本の作り方を覚えるのが先決です。
男性名詞の複数形(もう1つのバリエーション)
男性名詞なのに、中性名詞の複数語尾を使うものがあります。つまり、「а」とか「я」の複数語尾を使うのです。
具体例を見てみましょう。
- дом 「家」→ дома
- город 「町」→ города
- штепсель 「プラグ」→ штепселя
語尾が「а」、「я」になっていますね。
もう1点、お気づきかもしれませんが、赤文字の場所が変わっています。つまり、このタイプの複数語尾を使う場合は、アクセントも一緒に変化する、しかも、必ず語尾にアクセントが来る、ということを注意してください。
悩ましいアクセント移動
たった今、アクセントが移動するという話が出ましたが、この「アクセント移動」はとても学習者泣かせです。
例えば……
- кот 「猫」(男性名詞) → 複 коты
- кремль 「クレムリン、要塞」(男性名詞) → 複 кремли
- чай 「茶」(男性名詞) → 複 чаи
- гора 「山」(女性名詞) → 複 горы
- семья 「家族」(女性名詞) → 複 семьи
- дело 「仕事、用事」(中性名詞) → 複 дела
- море 「海」(中性名詞) → 複 моря
男性名詞、女性名詞、中性名詞に限らず、複数形になるとアクセントの場所が変わっています。アクセントの場所が変わると、単語の聞こえ方がだいぶ変わってしまいます。そのため、アクセントの場所も合わせて丁寧に覚えていきましょう。
ちなみに、全名詞の中で語形が変わるとアクセントが変わるというのは、およそ7%、初学者向けの辞書『パスポート初級露和辞典』(白水社、初版1994年)だと全名詞の中の14%です。
私自身がロシア語を教えるとき、体感的に初級者向けの教科書の単語はよくアクセントが移動するなぁと思っていたのですが、初学者必須単語の中にアクセント移動名詞が多いわけなんですね。
とはいえ、全体の20%にも満たない語数です。頑張って覚えていってください。(この数字、励みになるのか、ならないのか……(笑))
正書法の問題
「正書法」、別名「つづり字の規則」というものがあります。これは、単語を文字で綴るときの規則です。(参考→正書法について)
正書法については、詳しくは別の記事に譲るとして、ここでは簡単に説明しておきます。
「Г、К、Х、Ж、Ч、Ш、Щ」の後に「Я、Ы、Ю」を書くんじゃねぇ! 書かなきゃいけなくなったら「А、И、У」を書いとけ!!!
……という規則です。
ロシア語では、「КЫ」とか「ЖЯ」といった並びの文字の配列は、通常ありません。だから、普通に単語を覚えるだけなら、この規則は気にしなくてもよいでしょう。
しかし、文法を学ぶ上では、とても大事な規則です。例えば、本記事のテーマ「複数形」。
名詞を複数形にするには、単語の最後に語尾「ы」を付ける、もしくは「а」を「ы」に変えればよかったわけですが、次のような場合どうなるでしょう?
бланк 「用紙」(男性名詞) → 複 бланкы???
сумка 「カバン」(女性名詞) → 複 сумкы???
複数形にすると、下線のような並びが出て来てしまいました。これがダメなのです。正しくは……
бланки
сумки
と書かなければなりません。
出たり消えたりする母音「出没母音」
出没母音……なんだそりゃ、って感じですよね(^_^;)
具体例を見た方が早いでしょう。
- сон 「夢、睡眠」(男性名詞) → 複 сны
- японец 「日本人」(男性名詞) → 複 японцы
「夢、睡眠」、「日本人」を複数形にすると、単数の時にあった「о」と「е」が消えてしまっています。これが出没母音です。このケースは「没」パターンですね。
名詞を複数形にするとき、男性名詞でしばしばこのようなことが起こります。これも1つ1つ丁寧に……。
ちなみに、「出没母音」というだけあって、母音が出てくるパターンもありますが、名詞の複数形では出てきませんので、この件については改めまして……。
以上、名詞の数でした。